国土交通省は2018年3月に、戸建て住宅から特殊建築物への用途変更の際に、床面積200㎡までであれば確認申請を不要とする法律案を閣議決定したと発表しました。
日本では空きや問題が深刻で、7軒に1軒が空き家になっています。
2033年には3軒に1軒が空き家になるともいわれています。
既存の住宅ストックを有効活用するためにも、建築確認のハードルを下げることで戸建住宅の用途変更による活用を促す法改正になりそうです。
今回の建築基準法の改正案について詳しくご紹介します。
目次
今回の建築基準法改正案の背景
2013年の調査では、日本の空き家軒数は820万戸となり、3軒に1軒が空き家になっています。
野村総合研究所の調査では、2033年には空き家は2150万戸にもなり、3軒に1軒が空き家になる見通しです。
空き家が増えている背景は核家族化でしょう。
「実家は長男が相続するもの」という家督相続の風習は、マイホーム取得による核家族化の進行でほとんど姿を消しています。
親の実家を相続しなかった世代はマイホームを持ち、その子供もマイホームを持つことで、どんどん空き家が増える社会構造になっています。
よほど一等地であれば空き家を売却することもできますが、
- 立地が悪くて空き家が売れない
- 先祖代々の実家を売ることに抵抗がある、親戚から売却を反対される
などの理由で、放置空き家を所有している人が増えています。
放置空き家は固定資産税がかかったり、きちんと管理しないと倒壊や悪臭で近隣住民に迷惑をかけることになります。
2015年には空き家対策特別措置法が施行され、放置空き家は最悪の場合、行政代執行で解体されて解体費用が所有者に請求されるようになっています。
「空き家を売れないならなんとか活用したい!」という所有者も多く、
- 賃貸物件にする
- 民泊にする
- 介護施設にする
- 店舗にする
など戸建住宅から用途変更して空き家を活用したいニーズが増えています。
国土交通省の調査によると、戸建て空き家の延べ面積別の割合は、
- 100㎡未満:約3割
- 100㎡以上200㎡未満:約6割
- 200㎡以上:約1割
となっています。
約9割の戸建て空き家は床面積が200㎡未満であるのに対し、用途変更に確認申請が不要なのは延べ面積100㎡未満までとなっていました。
これでは空き家活用が進みにくいということで、確認申請不要の範囲を延べ面積200㎡未満まで拡大することとなったのです。
今回の建築基準法改正案の内容
今回の建築基準法の改正案の内容は以下の4つです。
- 戸建住宅から特殊建築物への用途変更において、確認申請不要な範囲を延べ面積100㎡→200㎡に見直し
- 延べ面積200㎡未満で階数3階以下の戸建住宅を特殊建築物にする場合は耐火建築物にすることが不要
- 既存の不適格建築物を用途変更する場合は段階的に現行基準に適合させていくことが可能
- 既存建築物を一時的に別の用途で使用する場合の制限を緩和する
ちなみに特殊建築物とは、
- 学校
- 体育館
- 病院
- 劇場
- 観覧場
- 集会場
- 展示場
- 百貨店
- 市場
- ダンスホール
- 遊技場
- 公衆浴場
- 旅館
- 共同住宅
- 寄宿舎
- 下宿
- 工場
- 倉庫
- 自動車車庫
- 危険物の貯蔵場
- 畜場
- 火葬場
- 汚染処理場
などです。
延べ面積200㎡未満で階数3階以下の戸建住宅を特殊建築物にする場合は耐火建築物にすることが不要
従来は耐火建築物にする用途変更の工事は、壁や柱などに石膏ボードを張るなどの大規模な改修工事が必要でした。
建て替えに匹敵する費用がかかったため、戸建住宅からの用途変更が難しい現実がありました。
ですが、今回の改正で用途変更の費用が大幅に下がるため、空き家活用が進むでしょう。
今回の改正案では、特殊建築物の種類によって必要な対応の内容が違うようです。
例えば、
- 飲食店:特段の措置は不要
- 宿泊施設や福祉施設など就寝する用途:早期避難の措置、スプリンクラーや防火扉の設置、間仕切壁等による延焼防止
- ホテルや病院:警報装置の設置、階段の区画、間仕切壁や戸
などがあります。
ただし、非常用照明の設置が必要な点や、倉庫や自動車車庫は従来通りの耐火構造にする工事が必要です。
また、延べ面積100㎡を超える建築物の用途変更は維持保全計画の作成や定期報告の義務ができます。
既存の不適格建築物を用途変更する場合は段階的に現行基準に適合させていくことが可能
従来の建築基準法では用途変更をするときは一度に適合基準にする必要がありましたが、改正後は段階的に基準に適合していくことが可能です。
増改築を伴わない用途変更も、全体計画を策定して地方公共団体が認定すれば段階的な改修が可能です。
「増改築を伴わない」とは既存不適格建築物などのことです。
例えば、排煙設備や不燃化工事などを一度に行う必要がありましたが、階ごとや部屋ごとなどに分けて段階的な改修ができるようになります。
大規模な改修工事のコストを時間分散できるため、用途変更の工事がしやすくなります。
既存建築物を一時的に別の用途で使用する場合の制限を緩和する
従来は既存建築物の一時的な転用に対応する規定がなかったため、今回の法改正で整備されます。
既存建築物を一時的に他の用途に転用しやすくなります。
例えば戸建住宅を一時的に、
- 集会場
- 学校
- 共同住宅
- 店舗
などに転用できます。
短期間のイベントや、特定の季節だけの転用などに向きます。
転用期間は1年未満など用途によって詳細は変わるようですが、ストックの活用が進む内容といえます。
参考:国土交通省「戸建て住宅等の用途転用の円滑化(建築基準法の改正)について」
民泊新法により地方の戸建て空き家活用に追い風
2018年6月に施行された民泊新法の内容の目玉は「1年のうち半年しか民泊ビジネスをしてはいけない」というものです。
民泊新法施行前は東京都心部を中心に「民泊不動産投資」が流行りました。
一般的な不動産投資はマンションなどを購入して賃料で稼ぐ方法でしたが「新しい不動産投資」として民泊目的の物件購入が流行ったのです。
東京都心のワンルームマンションを購入して、民泊として宿泊者に貸し出します。
民泊ビジネスの命は集客ですが、民泊サービス大手のAirbnbなどを使えば世界中から集客できます。
不動産投資のローンを組んで、都心部に民泊物件を買う人が増えていきました。
しかし、民泊が進むにつれてトラブルも増えていきました。
- 騒音などで近隣住民に迷惑をかける
- 民泊物件での殺人事件
- 民泊禁止物件での無断民泊
など、法整備がなされていなかったことでトラブルが多かったのです。
海外では民泊は一般的な宿泊スタイルですが、日本では民泊はあまり根付いていなかったため、民泊の法律がなかったのです。
そのため、2018年に民泊新法が施行されました。
前述のとおり民泊新法では「民泊ビジネスをしていいのは1年のうち半年だけ」という規制ができたため、不動産投資目的で民泊を行っていた人たちは採算が合わなくなりました。
不動産投資ローンを返済していかなければならないのに、1年の半分も営業できないようではとてもビジネスになりません。
つまり、民泊ビジネスができるのは「もともと不動産をもっている人」に限定されたのです。
例えば、
- 親から実家を相続したが空き家になっていて、何かに活用したい
- 別荘を持っているがもうほとんど行っていない
- 借金を完済した投資用物件を持っているが築年数が古いため借り手がつかない
という人が民泊ビジネスの対象者となります。
特に地方都市では古き良き日本家屋が空き家になっていて、所有者は「売れない…」「活用方法がない…」と悩んでいます。
今回の建築基準法改正により、空き家を民泊や宿泊施設などに用途変更しやすくなるため、地方の不動産ビジネスが活性化する可能性があります。
外国人観光客は年々増加しており、地方都市への観光も人気があります。
外国人観光客は民泊に抵抗がなく「日本家屋に泊まってみたい」というニーズもあります。
もちろん、外国人観光客を泊めるということはリスクもあります。
文化の違いからくる認識の違いでトラブルになることもあるでしょう。
ですが、不動産を所有している以上「何かに活かしたい!」という人は、民泊ビジネスを検討する良い機会になるかもしれません。
民泊ビジネスは地方の空き家の新しい価値の創造になるかもしれないのです。
建築基準法改正で建築業界に追い風
今回の建築基準法改正で戸建住宅の用途変更が進めば、当然ながら建築事務所や施工業者にもメリットがあります。
リフォームやリノベーションのハードルが下がることで、案件が増えることが予測されます。
今回の建築基準法改正の情報を一般の人が積極的に活用しようとは思わないでしょう。
改正になったことすらわからないと思います。
業者側から積極的に改正内容をアピールして、具体的に顧客にどんなメリットがあるかを発信しましょう。
今まで空き家を活用したいけど何もできなかった人はたくさんいますので、積極的にアピールすることでビジネスチャンスになるでしょう。
まとめ
今回の建築基準法の改正案では、
- 戸建住宅から特殊建築物への用途変更において、確認申請不要な範囲を延べ面積100㎡→200㎡に見直し
- 延べ面積200㎡未満で階数3階以下の戸建住宅を特殊建築物にする場合は耐火建築物にすることが不要
- 既存の不適格建築物を用途変更する場合は段階的に現行基準に適合させていくことが可能
- 既存建築物を一時的に別の用途で使用する場合の制限を緩和する
の4つが発表されています。
日本の空き家問題の解消や、地方都市での民泊ビジネスの促進、建築業者のビジネスチャンスになるニュースといえるでしょう。
新たな不動産価値の創出になる可能性がありますね。