国土交通省は2018年12月3日の社会資本整備審議会建築分科会の建築環境部会で、建築物省エネ法の改正の考えを示しました。
主な改正案は、
- 300㎡未満2000㎡以上の中規模建築物は届出義務から適合義務へ
- トップランナー制度の範囲が注文戸建て住宅と賃貸アパートにも拡大
- 住宅を含む小規模建築物の建築時は建築士が施主に省エネ基準の適合可否を説明する義務ができる
の3つです。
それではさっそく、今回の建築物省エネ法の改正案についてご紹介していきます。
目次
そもそも建築物省エネ法とは?
建築物省エネ法は「建築物における省エネ基準づくり」のために、2017年4月に施行されました。
住宅以外の一定規模以上の建築物の省エネ基準の適合義務などが盛り込まれた法律です。
2015年にパリで行われた「COP21」という国際会議で、地球温暖化に向けた国際的な取り組み「パリ協定」が採択されました。
日本では2030年度までに温室効果ガスを26%削減する目標を設定しています。
日本のエネルギー消費は大きく分けると、
- 産業:製造業、農林水産業、鉱業、建設業などの工事や事業で消費されるエネルギー
- 民生:家庭部門と業務部門に分かれる
- 運輸:輸送や運搬で消費されるエネルギー
の3つに分けられます。
建築物省エネ法は「民生部門」に該当します。
民生部門の家庭部門のエネルギーは、冷暖房・給湯・厨房・動力・照明などの5つの家庭内の消費エネルギーです。
業務部門は、オフィス・ビル・商業施設・学校・病院・飲食店・ホテル・娯楽場・福祉施設などの消費エネルギーです。
民生部門の消費エネルギーは国内のエネルギー消費の1/3まで上昇しています。
民生部門の消費エネルギーを削減することがパリ協定での目標達成のためには必要です。
「省エネ住宅」が有名になっていますが、省エネ基準を満たす住宅は2013年で住宅全体の6%ですが、2025年には20%にする目標です。
省エネ住宅は実際に住宅に住む人にも大きなメリットがあるため、省エネ住宅の供給は今後さらに加速するでしょう。
建築物省エネ法の改正案の詳細を見ていきましょう。
改正①300㎡未満2000㎡以上の中規模建築物は届出義務から適合義務へ
建築物省エネ法の規制措置は、
- 2000㎡以上の大規模な非住宅建築物(特定建築物)
- 300㎡以上2000㎡未満の中規模建築物
の2つの区分に分かれています。
①2000㎡以上の大規模な非住宅建築物(特定建築物)は省エネ法に適合している建築物である義務があります。
例えば、ビルや商業施設など省エネ法の基準をクリアして「適合判定通知書」を受け取らないと着工することもできません。
また、適合となった後も指定機関の確認審査や完了検査など必要です。
②300㎡以上2000㎡未満の中規模建築物は今回の改正で内容が変更になる予定です。
現行制度では省エネ法の適合義務はありませんでしたが、届け出義務はありました。
届け出義務とは「基準に適合せず、必要と認める場合は支持・命令が下る」というものでした。
ところが、今回の改正案で300㎡以上2000㎡未満の中規模建築物も適合義務化されます。
つまり、改正後は300㎡以上の特定建築物(非住宅)は適合義務になります。
現行 | 改正予定 | |
2000㎡以上の非住宅の建築物 | 適合義務 | 適合義務 |
300㎡以上2000㎡未満の非住宅の建築物 | 届け出義務 | 適合義務 |
改正②トップランナー制度の範囲が注文戸建て住宅と賃貸アパートにも拡大
300㎡未満の小規模建築物では、分譲住宅を対象に「トップランナー制度」がとられています。
「トップランナー制度」を簡単にいうと、省エネ基準でトップレベルの会社の基準に他社も合わせて建築する制度です。
トップレベルの会社の基準に合わせる義務はありませんが「基準を満たしていない会社」として社名が公表されることや、罰金などの罰則あります。
トップランナー制度があることで「より省エネな技術開発」が促進するため大きなメリットがあります。
今回の建築物省エネ法の改正案では、従来は分譲住宅だけだったトップランナー制度を、
- 注文戸建て住宅
- 賃貸アパート
も対象にするとしています。
改正③住宅を含む小規模建築物の建築時は建築士が施主に省エネ基準の適合可否の説明義務
今回の改正案で、住宅を含む小規模建築物の建築時は、建築士が施主に省エネ基準の適合可否の説明義務化が検討されています。
住宅には省エネ基準の適合義務はありません。
住宅は個人の趣味嗜好やこだわりもあり、すぐに適合義務化とはいかないのも現実だからです。
消費税が2019年10月に改正させることもあり、今回の改正案には省エネ基準の住宅への適合義務化は盛り込まれませんでした。
ただし、パリ協定による目標設定もあるため、省エネ住宅を増やしていくのも国の課題です。
近年注目されているゼロエネルギーハウス(ZEH)は、住宅で消費するエネルギーを太陽光などで住宅が作り出すエネルギーですべてまかなう住宅です。
「光熱費がかからない住宅」でもあるため、施主にも大きなメリットがあります。
住宅の省エネ対策は、
- 外壁、屋根、天井、床、窓など住宅の外側の部分に省エネ対応の部材を使う(断熱効果)
- 電気、エアコン、冷蔵庫、給湯などを省エネ家電にする
の2つがあります。
適合義務まではいきませんが、建築士が施主に対して省エネ住宅にできる可能性や選択肢を説明することが義務化される流れです。
建築物省エネ法の誘導措置(任意)
ちなみに、建築物省エネ法には誘導措置(任意)があります。
建築物が省エネ基準に適合していると認定を受けると「省エネ基準適合認定マーク」(通称「eマーク」)を建築物や広告に表示できるようになります。
建築物の販売会社はeマークを自社のセールスポイントにすることができるということです。
また、省エネ基準に適合する建築物は「容積率特例」が認められ、省エネ性能向上のための設備を設置するスペースで建築物の床面積を超える部分は床面積として算入しなくて良いことになっています。
※上限は延べ床面積の10%まで。
容積率特例は新築に限らず、改築(リフォーム)、増築にも適用できます。
申請先は所管行政庁です。
今回の改正案から予測されること
今回の建築物省エネ法の改正案から予測されることは、
- 適合基準の認定が下るまでの時間がかかる
- 建築士は省エネ設計の知識が必要になる
の2点でしょう。
中規模建築物は短いスパンで次々にこなしていくものですが、省エネ基準認定を所管行政庁から受けるまでの時間がかかってしまいます。
施工業者にとって工期が長くなることは、年間売上の減少と建築コストの増大が懸念されます。
建築士や設計事務所では、省エネ設計のスキルが必要になります。
施主への説明義務もあるので、省エネ設計を提案して自社の利益になるようにしなければいけません。
ですが、法律改正はビジネスチャンスでもあるため、今回の改正がなされて、他社ができない部分を自社で対応できれば新たなビジネスを構築できるチャンスになる可能性もあります。
当然ですが、省エネ設計や施工に強い業者にとっては追い風の改正になりそうです。
まとめ
今回の建築物省エネ法の改正案は、
- 300㎡未満2000㎡以上の中規模建築物も省エネ基準の適合義務化
- トップランナー制度の範囲が注文戸建て住宅と賃貸アパートにも拡大
- 住宅を含む小規模建築物の建築時は建築士が施主に省エネ基準の適合可否を説明する義務ができる
の3つです。
設計の仕事をしている人は、省エネ設計の勉強をしておくことをおすすめします。
省エネ設計は今後もニーズが多いので、必要とされる設計技術者として避けては通れないところです。