東京都虹の下水道館に行ってきました。
目次
まさかのUFO型公共建築。「東京都虹の下水道館」はすごい外観だった!
国際展示場駅」から10分ほど歩き…… 「東京都虹の下水道館はこちら」の表示に従って歩道を左に折れ、階段を上っていくうちに、こ、これは……!?
……ドォォン!
……大きい。頭上に迫ってくる建物は想定外にど迫力です。まるで、「未知との遭遇」のUFO出現シーンが目の前で再現されているかのよう。
これかの建物が「虹の下水道館」です。
いきなりですが、取材中、東京都虹の下水道館の専門スタッフさんが同行してくれたので、こんな疑問を投げかけました。
「あの~、ネットでは『キノコみたい』というコメントで盛り上がっている人たちもいるようですが、なんでこういう形の建物に決めたんですか?」
専門スタッフさん:「地球という星は、他の惑星とは異なり、水があるということが特徴です。水に興味・関心を持った宇宙人が地球を訪れて学ぼうとしている、というストーリーを込めて、宇宙船のようなデザインの建物になっていると聞いています」。
なんと、下水道関係の施設=水のある惑星への興味=宇宙からの視点、という連想ゲームから、「宇宙船」の形に決まったのだそうです。UFO型の公共施設は日本初かもしれません。
建物を見ただけで満足してしまいそう…..ですが、中はもっと充実しています!
この記事では、職業体験や大人が知っておくと深く楽しめるポイントなどをくわしくご紹介します。ぜひ、家族で足を運んでみてください。
家族で出かけられて職業体験もできる、東京都下水道局の広報施設
働き方改革で休日が増えた方も多いと思います。子どもと行けるお出かけ先を検討する人もいるでしょう。
そこで今回は、家族で出かけられる東京都の施設「虹の下水道館」をご紹介します。子どもたちと一緒に、建設の仕事について考えることもできれば、大人が行って都市インフラについて学ぶこともできる施設です。職業体験やコスチュームの利用料金は無料なので、じっくり腰を据えて、下水道のことを知るのもいいかもしれません。
いまや日本列島では、毎年のようにゲリラ豪雨があったり、大型台風が襲ったりと「水」にまつわる災害が起きています。下水道は、雨水があふれないように都市の外に流していく役割があり、災害について語るときには欠かせないインフラです。また、普段の生活の中でも、トイレも、キッチン、お風呂の排水を流し、自然に還す役割を担っています。
ところが、これほど重要な役割を担っていても、ほとんどの設備は地下に埋められているので、普段から人目につくことが少なく、あまり意識されることがありません。
少し先走ってしまいますが、この「東京都 虹の下水道館」がすごいのは、本当にリアルな下水道の「現場」を知ることができる点です。下水道関係の人たちが、どんな環境で、どうやって働いているのか、災害時の対応など、子どもだけでなく、実際に仕事を持って働いている大人たちにとっても、いろいろな気づきが得られる施設です。
「東京都虹の下水道館」はどういう施設か
「東京都虹の下水道館」があるのは、有明水再生センター(UFO型の建物)の5階部分。1フロアに「家庭」「下水道管」「ポンプ場」「水再生センター」などの関連施設が集約されていて、排水が再生されるまでの流れを知ることができます。
専門スタッフさん:「海外の関係者が視察に来ることもあるんですよ。これから下水道の整備を始める国は、いろいろな国のシステムを参考にしたりしますから」
日本ではありえないけれど、世界にはまだ下水道がない国もあるんですよね。
「虹の下水道館」の施設の利用案内
★アクセスと開館時間など
ゆりかもめの「お台場海浜公園駅」から徒歩8分、りんかい線の「国際展示場駅」から徒歩10分 くらいです。
開館時間は9:30~16:30。
★職業体験について
下水道局の職員さんと同じデザインの作業着とヘルメットを着用してお仕事体験ができます。 開始時間は10:00、11:00、13:00、14:00、15:00の5回。
すべて当日予約です。
★トイレや子ども用スペース、注意点
施設敷地内に多目的トイレ、フリア内に幼児用のキッズスペースがあります。有明水再生センターの施設見学ツアーは場内に段差があるのと、長い距離を歩くことになるので動きやすいスタイルで。また、ルート内には冷房設備がないので、夏場は十分な水分補給が必要です。
まずは人感センサーで遊べる「どかんビジョン」だ
さて、ここからは「東京都虹の下水道館」内で、どんなことができるのか、見ていきましょう。
まず、エレベーターを降りると目の前に見えるのが、大きな土管型の「どかんビジョン」。センサーが動きに反応して、落ちてくる水が流れを変えたり、汚れやゴミが弾かれたりします。小さい子でも体感的に楽しめるスポットです。
細い「枝線」から太い「幹線」に水が合流しているのがわかるでしょうか。生活排水から流れる油分が固まった「オイルボール」が落ちてきたり(悪玉)、トイレともつながっていることからトイレットペーパーも流れてきます。雨水が急に大量に流れ込んで水かさが増したり、まるで「下水道の1年」を再現しているよう。
=大人が知っておくと楽しめること=
専門スタッフさん:「ビルや建物、道路の下には、直径25cmから、大きいものだと8.5mもの下水道管が張り巡らされています。これは、かなり膨大な数の設備。これらを適切にメンテナンスし、下水道管が崩れて、上の道路が陥没してしまう……といったトラブルが起きないよう、日頃から維持管理に気をくばっています」
ちなみに、東京都の下水道管を全てつなぎ合わせると、東京・シドニー間を往復するほどの距離に相当する、ということを知っておいてもいいかもしれません。
排水管がシースルーで見える「アースくんの家」
「アースくんの家」では、本物のトイレや洗面所、お風呂が設置してあり、排水管がシースルーになっていて、流した水が床下を通って家の外に出ていくところが見えます。子どもたち自身で水を流して、追いかけながら、下水道のしくみを見ることができます。
=大人が知っておくと楽しめること=
家の外に出てみると、L字側溝があります。これは、街にあるものと同じデザインで、「合流」、「分流」という印がついています。雨水と家庭排水が同じ管を流れているか、別々になっているかの違いです。
専門スタッフさん:「大雨になると街中に水が溢れてしまうことがありますが、これは下水道の容量不足だけでなく、雨水ますや側溝に一般家庭のゴミや落ち葉が溜まり、詰まってしまうことも原因なんです。L字側溝の段差によく置かれている、駐車用などの段差解消ブロックも、雨水を取り込む部分をふさいでしまい、浸水の危険が高くなります」
「東京都虹の下水道館」の職業体験
さて、展示に続いて「お仕事体験」についてもご紹介します。
「東京都虹の下水道館」のお仕事体験では
- 土木系の仕事
- 設備系の仕事
- 環境検査の仕事
の3種類が体験できます。
道局の職員と同じ作業着を来て、おそろいのカラーリングのヘルメットをかぶり、さらに、体験の前には工事看板を書いて、周囲の人にも工事情報を伝えたりと、まさに現場の作業そのものの雰囲気が味わえます。
お仕事体験「下水道管をピカピカにしよう」
★なんと、本物の高圧洗浄機を使います
「アースくんの家」の横にあるブースでは、下水道管のお掃除が体験できます。
カッパとヘルメットを装着し、マンホールを開けて、下水道管の汚れを高圧洗浄機で吹き飛ばします。まずは細いカメラで汚れをさがし、吹き飛ばして取り除き、最後は目視で点検。狭いスペースで、集中して作業するんだな~、ということがわかるでしょう。
(油の塊に見立てたスポンジを高圧洗浄機で吹き飛ばします)
お仕事体験「下水道を“たんけん”しよう」
★マンホールに潜って下水道を点検する
模擬マンホールから地下の管路に入って、暗い中を懐中電灯で照らしながら中を探検します。下に降りる前には、地下に潜っている人数がわかるように、入り口にある名札を裏返し、有毒ガスが出ていないかをメーターで確認。
地下に降りると、コンクリート面にヒビ割れや、むき出しになって崩れてきそうな鉄骨があり、老朽化している箇所を見つけたら報告します。奥には、下水道管を更生する SPR工法の機械(*)が置かれています。「いま、自分たちがいる場所は、膝くらいの高さまで、下水が流れているんだなぁ~」と想像すると、よりリアルに感じられるかもしれません。
=大人が知っておくと楽しめること=
専門スタッフさん:「下水が流れる中での作業は非常に過酷なんですよ。実際は、マンホールの上を自動車が走っていることもあります。安全には常に細心の注意を払って、下水道の工事は進められています。」
*SPR工法
老朽化した下水道管を更生するには、昔は下水を止めて道路を掘り起こしていました。しかし、SPR工法は既設管の内側に塩化ビニルのプロファイルを螺旋状に製管し、既設管との隙間に裏込め材を充填して、既設管の内側に、新しい管を築造する工法です。でも、これでは下水道管が細くなってしまうのではありませんか?
専門スタッフさん:「少し径が小さくなっても流量はほとんど変わりませんし、流れの良い管渠として再生できるので、問題ありません。」
下水処理場(水再生センター)のお仕事も体験できる
★ポンプを動かして、街を浸水から守る
ポンプ所の現場で、詰まったパイプをつなぎ直して、ポンプを直すお仕事と、中央監視室でポンプ4台を遠隔操作して、浸水を防ぐシミュレーションゲームができます。
(奥のディスプレイでアメッシュを見ながら、手前のコンピュータでポンプを動かします)
=大人が知っていると楽しめること=
そもそも「ポンプってなんのためのもの?」と思われる方もいらっしゃいますよね。下水道は重力を利用して水を流すために下水道管に傾斜がついているので、下水道管が深くなりすぎないように、ポンプ所までくると途中で下水を汲み上げ、地上近くに戻しているのです。
普段は100%稼働しているわけではないのですが、ゲリラ豪雨や大型台風が来ると、たくさんの雨水が下水道に流れ込むので、ポンプもフル稼働。局員が24時間体制で監視にあたります。
専門スタッフさん:「雨雲の動きがわかる『東京アメッシュ』を見ながら、ポンプの運転を調整し、街を浸水から守っているんですよ」
このシミュレーション、子供向けだと思ってたかをくくるのは禁物です。大人が頑張って操作しても、降雨量がポンプの処理能力をオーバーし、街が浸水する……という難しいパターンが混じっているんだとか。
下水処理場で水をキレイにする微生物観察のお仕事体験
★ちょっと意外な水質検査方法
水再生センターの水質検査室を再現したブースでは、顕微鏡がずらっと並んでおり、覗きこむといろいろな微生物が見えます。
実は、顕微鏡のプレパラートに載っているのは、「虹の下水道館」の地下にある有明水再生センターから運んできた水。水をきれいにしてくれる微生物が多く含まれています。
この中に、キレイな水を好む微生物と、汚れた水を好む微生物がそれぞれどのくらいの割合でいるのかを見ると、水質チェックの1つの指標になるのだそうです。
=大人が知っていると楽しめること=
水がきれいになってくると、「キレイな水を好む微生物」が増えてくるそうです。
この検体を持ってきている有明水再生センターでは、下水道のことを知り尽くしたベテラン局員が、施設内を案内してくれるツアーもあり、地下で稼働中の浄水場が見られます。場内の配管や稼働音など、本物を味わいたい人に大人気なので、なかなか予約が取りづらいそうです。気をつけて。
まとめ・ほとんどの設備が地下にあり、どうPRするかが課題なんだとか
「東京都虹の下水道館」には、ここでご紹介したほかにも、巨大な下水道施設の中をVRで探検できるコーナーや、下水道がなくなったら現れるホラーな世界を再現した映画……といった、素通りするにはもったいないコンテンツが満載です。
一方、専門スタッフさんによれば、下水道は地下にあり、ほとんど人目に触れることがなく、あまり存在を意識されない……のが課題だとか。
専門スタッフさん:「下水道が普及し、トイレの水洗化が進んだ現在、下水道はあって当たり前のものとなり、お客さまの関心や認知度は低下しています。加えて、浸水から街を守るという下水道の重要な役割についても認知度が低い傾向にあります」
「そこで、下水道に対する理解をより一層深めていただくために、様々な広報活動を行っているところですが、今回、記事を読んでくださった方々には、『東京都虹の下水道館』に気軽にお越しいただき、下水道の仕事を知ってもらい、身近に感じてもらえると非常に嬉しいです」。
その思いの通り、「東京都虹の下水道館」で再現されている下水道の現場は、とにかくリアルです。建設業の経験があれば、知識をもとに、お子さんに仕事のことを伝えるのにも役立つでしょう。
インパクト大の「UFO型公共施設」を訪れて、親子でちょっと考える休日を過ごしてもいいかもしれませんよ。