この記事でわかること
- 杭工事の目的と種類
- 杭工事の施工管理の流れ
- 杭工事の施工管理の注意点
- 杭工事の施工管理におすすめの資格
杭工事の施工管理を適切に遂行しないと、建物の安全性が脅かされ重大な事故につながる危険性があります。
この記事を読むことで、杭工事の施工管理に必要な知識を身につけられます。
杭工事に自信をもって臨むためにも、最後まで読んでみてください。
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この記事の監修者
施工管理の技術者派遣を行う会社。これまで1500名以上の未経験者を施工管理として育成した実績あり。
- 労働者派遣事業許可番号 派13-304593
- 有料職業紹介事業許可番号 13- ユ-304267
- 特定建設業 東京都知事許可 (特-1) 第150734号
目次
杭工事の目的
杭工事の目的は、建物を安定して支えるために、地盤に杭を打ち込む基礎工事のことです。
例えば、軟弱な地盤にそのまま建物を建築してしまうと、傾いたり倒壊したりする恐れがあります。
そうならないためにも、地盤調査を実施し、杭工事が必要かどうかを判断するのです。
判断基準として、地盤の強度と建物の荷重が関係してきます。
日本は軟弱地盤が多いので杭工事が用いられるケースは多く、基礎を構築するうえでは必要な工法です。
杭工事工法の種類
杭工事の工法には、以下の2種類があります。
杭工事工法の種類
- 場所打ち杭工法
- 既成杭工法
詳しく解説します。
場所打ち杭工法
現場で直接、杭を施工する方法です。
メリット
- 支持力が高い
- 品質管理が容易
- 狭い場所でも施工が可能
- 低騒音・低振動で施工が可能
- 現場で直接施工できるので柔軟性が高い
また、場所打ち杭工法には、以下の4つがあります。
工法 | 具体的な内容 |
---|---|
オールケーシング工法 | 杭の全長にわたりケーシングチューブを圧入し、コンクリートを打設する工法 |
アースドリル工法 | ケーシングチューブと安定液を注入しながら、アースドリルで掘削する工法 |
リバース工法 | パイプと削孔した自然泥水を通常のボーリング削孔の方向と逆に循環させて掘削する工法 |
深礎工法 | 鋼製の板(ライナープレート)で孔壁を支えながら人力で掘削する工法 |
支持層まで30m以上ある場合は、場所打ち杭工法が用いられるケースが高くなります。
既成杭工法
工場で作られた杭を現場へ搬入し、施工する方法です。
メリット
- 品質が高い
- 施工の簡素化が可能
- 施工速度が速い
- 材料費が安くすむ
また、既成杭工法には以下の3つがあります。
工法 | 具体的な内容 |
---|---|
打込み杭工法 | ハンマにより既成杭を地中へ打ち込む工法 |
埋込み杭工法 | 既成杭を自沈または圧入によって地中へ入れ込む工法 |
回転杭工法 | 鋼管杭の先端に翼を装着し、回転させることで杭を打ちつける工法 |
工場で杭を製作するので長さ制限があり、約20m程度の場合は既成杭工法が用いられます。
杭工事における施工管理の流れ
杭工事の施工管理って、実際にはどんな感じで進めていくの?
以下の2工程に分けて、杭工事の施工管理を解説していきます。
杭工事の施工手順
- 準備作業の流れ
- 本施工の流れ
各施工手順をさらに細かく解説していますので、参考にしてみてください。
準備作業の流れ
準備作業を細かく分けると、以下の6つの工程で進みます。
準備作業の工程
- 使用する杭の選定・発注
- 責任所在の洗い出し
- 杭伏図(施工図)の作成
- 残土処分業者との産廃契約
- 仮設の手配
- 施工計画書の作成
それぞれ詳しく解説します。
1.使用する杭の選定・発注
設計書から、要件を満たす杭の選定と採用を行います。
注意点
- 経済的か
- 納期に間に合うか
- 品質に問題はないか
- 作業スペースは確保できるか
- 必要な支持力を得られているか
- 選定した杭の運搬方法に問題はないか
杭を選定したら杭メーカーへ必要個数分を発注します。
2.責任所在の洗い出し
次に、施工管理を担当する元請け業者と、杭業者が担当すべき業務範囲を整理します。
元請け業者が担当する範囲
- 杭位置の管理
- 杭芯の位置出し
- 施工計画書の作成
- 杭残土の搬出・処分
- 工事検査記録・記録写真
- 杭工事に使用する材料の確認
- 仮囲いの設置といった安全面の確保
- 測量機器やボールタップなど備品の確認
施工管理者として、以上の項目は確認しましょう。
杭業者が担当する範囲
- 杭継手材
- 杭の材料
- 杭周液の材料
- プラントの手配
- 杭工事施工報告書
- 杭工事に関わる建設機械
- 品質記録シート、施工要領書
- 特殊車両通行許可申請(必要に応じて)
3.杭伏図(施工図)の作成
実際に杭工事を実施するための「杭伏図」を作成します。
杭伏図の記載内容
- 杭の工法
- 杭の仕様(材料・径・長さ・肉厚)
- 杭の位置
- 杭の本数
- 杭番号
- 基準レベル
- 打ち込み量
- 杭頭の高さ
- 構造物に形状や寸法
- 埋設物の有無
- 施工する地盤に関わる情報
杭伏図を作成したら、工事監理者より承認を得ます。
4.残土処分業者との産廃契約
杭工事で発生する残土は産廃処理の対象です。
そのため、産廃業者とあらかじめ契約しておきましょう。
契約が遅れると、いざというときに残土処分が間に合わなくなってしまうからです。
事前に確認すべき内容
- 残土数量
- 処分方法
- 処分費用
- 土質や含水比
- 車両の形状や台数
- トラブル時の対応方法
5.仮設の手配
工事の規模や現場条件に応じて、仮設の手配をします。
確認すべき内容
- 電気
- 仮囲い
- 残土置場
- 仮設足場
- 土留め材
- 計測機器
- 車両通行用の敷き鉄板
- 水(給水栓やタンク用のボールタップ)
6.施工計画書の作成
施工計画書では、以下の内容を記載します。
必要な項目 | 具体的な内容 |
---|---|
工事概要 | 工期・施工時間・現場の所在 |
工程 | 全体工程や各部門における工程 |
現場組織表 | 現場代理人・主任技術者・各部門の責任者 |
仮設計画 | 仮設事務所・資材置場・残土置場 |
施工の方針 | 工事の全体的な進め方・施工体制・施工方法 |
施工管理計画 | 工事の進捗管理・品質基準 |
安全衛生管理 | 緊急時の体制・安全衛生管理組織 |
交通管理 | 現場周辺の交通規制・交通誘導員の配置 |
環境管理 | 騒音や振動対策・廃棄物の処理方法 |
本施工の流れ
本施工では、以下の工程で進めていきます。
本施工の工程
- 試験杭の施工
- 杭打機の搬入・設置
- 杭芯の位置出し
- 1回目の貫入と溶接
- 2回目の貫入
- 杭の位置ずれ確認
それぞれ詳しく解説します。
1.試験杭の施工
試験杭とは、本体工事に先立ちデータだけでは把握できない現場の状況を理解するために用いられる杭打ち試験のことです。
試験杭で確認できる事項
- 支持力
- 施工方法
- 施工時間
- 施工品質
試験杭では、監理者が立ち会い合格すると本施工に取り組めます。
2.杭打機の搬入・設置
杭打機の設置では、以下を確認しましょう。
確認事項
- 作業スペース
- 狭あい箇所
- 杭打機を設置する地盤状況
3.杭芯の位置出し
杭芯とは、杭の中心のことです。
施工の際に杭が傾いてしまう(偏心)ので、杭芯を出して正確な位置を把握しておく必要があります。
偏心した杭は支持力に影響が出てしまうからです。
具体的には、水糸や測量機器を使って位置を出します。
施工後に偏心量を加味したうえで、支持力があるか計算します。
4.1回目の貫入と溶接
いよいよ杭を打ち込みます。
鉛直を確認しながら杭を慎重に打ち込みましょう。
1本目が打ち終わり杭の延長が足りない場合は、1本目と2本目を接合します。
溶接では以下に注意します。
注意点
- 杭の歪み
- 溶接面の錆び
- 割れや溶け込み不良の確認
5.2回目の貫入
溶接が完了したら、再度貫入します。
鉛直に打ち込まれているか貫入深度などボーリングデータと管理装置の計測値を確認しながら進めていきます。
6.杭の位置ずれ確認
所定の深さ付近まで到達したら、確認作業を行います。
確認事項
- 支持層に到達するまでの位置ずれ
- 杭への負担
杭伏図と現地のデータを照らし合わせて、杭のずれが許容範囲内か確認しましょう。
問題がなければ、所定の深さまで貫入し打ち止めです。
後述しますが、杭の貫入に失敗した場合は多大なコストと時間がかかります。
そのため、慎重に作業を進めましょう。
杭工事における施工管理時の注意点
杭工事に失敗したらどうしよう・・・
できれば注意点も知っておきたいな。
杭工事において注意すべき点は、以下のとおりです。
杭工事の注意点
- 杭打機の転倒事故
- 打設した杭の大幅な位置ずれ
- 地中埋設物の対応
杭工事に失敗しないためにも、詳しく解説します。
杭打機の転倒事故
杭打機の転倒事故では、以下の注意が必要です。
杭打機が転倒する原因
- 乱暴な操作
- 強風・突風
- 無理な吊り込み
- 地盤の支持力不足
これらは杭打ち機が転倒する危険性があります。
対策としては以下があります。
転倒故防止対策
- 事前に天気予報を確認する
- 据え付け箇所に鉄板を敷く
- 吊り込みできる重量を超過しない
- 注意事項をオペレーターと共有する
打設した杭の大幅な位置ずれ
打設した杭の許容を超えた位置ずれには、以下が考えられます。
杭の位置ずれによる懸念点
- 構造計算上、強度が足りなくなる
- 打ち直す際に周囲の地盤がほぐれて構造物へ影響を及ぼす
これらにより再度、構造計算が必要となるため時間を要します。
さらに、コスト面にも多大な影響を与えます。
コスト面への影響
- 打ち込んだ杭の損傷具合が大きいと再利用できない
- 杭の増し打ちが必要
対策としては、重機オペレーターと杭の位置を入念に確認しましょう。
若手技術者同士だと、特に起こりやすいので注意が必要です。
地中埋設物の対応
予期せぬ埋設物が発見されたときは、以下の手順で対処しましょう。
埋設物の対応手順
- ただちに作業を注意し発注者へ連絡する
- 必要により埋設物の管理者へ連絡する
- 埋設物の種類や位置・状態を確認する
- 万が一に備えて安全措置(立ち入り禁止エリアへの指定など)を講じる
杭工事の施工管理におすすめの資格
杭工事の施工管理におすすめの資格って何があるの?
結論、以下の資格がおすすめです。
杭工事におすすめの資格
- 土木施工管理技士
- 鋼管杭施工管理士
知識やスキルが得られるだけではなく、資格手当を得られる場合もあります。
積極的に資格取得にチャレンジしてみましょう。
土木施工管理技士
おすすめの理由
- 法令の勉強ができる
- 基礎工事の勉強ができる
- 4大管理について勉強できる
- 杭工事に限らず土木全般の工事に使える
もし、杭工事の施工管理を担当する場合は、土木施工管理技士の取得を目指してみましょう。
詳しい受験方法については、以下の記事を参考にしてみてください。
鋼管杭施工管理士
先述した土木施工管理技士よりも、杭工事に特化した資格です。
専門的な知識だけではなく、トラブルの対応や杭の品質についての知識が身につきます。
詳しくは、鋼管杭施工管理士の検定試験の内容を解説【合格率は4割くらい】にまとめています。
まとめ
杭工事における施工管理の流れは、以下のとおりです。
準備作業
- 杭の設計後に発注
- 責任区分の整理
- 杭伏図(施工図)の作成
- 残土処分業者との産廃契約
- 仮設の手配
- 施工計画書の作成
本施工
- 試験杭により支持層の位置を確認
- 杭打機の搬入・設置
- 杭芯や逃げ杭の位置出し
- 1回目の貫入と溶接
- 2回目の貫入
- 杭の位置ずれ確認
杭工事を無事に終えて、1人前の施工管理者を目指しましょう。
この記事が参考になったら嬉しいです。
お知らせ
冒頭でもふれましたが、私たちワット・コンサルティングは、施工管理の技術者派遣の会社です。
未経験で施工管理になりたい人を募集しています。
転職を考える方は、転職先候補の1つとして情報収集してみてください。